血液の鉄人の理解しやすく役立つ臨床検査の部屋 Headline Animator

2015年7月30日木曜日

ヘリコバクター・ピロリの検査-2.尿素呼気テスト(UBT:Urea Breath Test)-

【検査原理】

ヘリコバクター・ピロリ菌が持つウレアーゼという酵素は、胃の中の尿素を分解してアンモニアと二酸化炭素を生成します。

この尿素の分解により、アンモニアと同時に生じた二酸化炭素は速やかに吸収され、血液から肺に移行し、呼気中に炭酸ガスとして排泄されます。

この原理を利用して、検査を実施します。

ヘリコバクター・ピロリ菌に感染していると、尿素が分解されるため呼気に13CO2が多く検出されます。

一方ヘリコバクター・ピロリ菌に感染していない場合は、尿素が分解されないため大部分が尿中に排泄され呼気には13CO2の排泄はほとんどありません。

【検査方法】

1.検査薬服用前に呼気を検査用バックに吹き込みます。

2.13C-尿素を含有した検査薬をつぶしたりせず、空腹時に水100mLとともに噛まずに速やかに(5秒以内に)服用します。

3.5分間左側臥位(さそくがい)の姿勢を保つ。

4.その後15分間座位の姿勢を保つ。

5.検査薬服用20分後の呼気を再度検査用バックに吹き込みます。

13C-尿素を含有した検査薬を服用後、呼気中の13CO2を測定します。

【測定方法】

呼気中の13CO2の測定は質量分析法や赤外分光分析装置で行います。

【判定】

検査薬服用前後の13CO2量の差2.5‰以上を持ってヘリコバクター・ピロリ菌陽性と判定します。

【検査を受ける際の注意点】

食べるものによっては胃粘膜の表面を覆ってしまい、内服した尿素とピロリ菌由来のウレアーゼと反応しないため偽陰性となることがあります。

さらに13CO2を多く含むトウモロモシやパイナップル、豚・鶏肉、卵などの摂取で測定値に影響を及ぼす可能性があります。

検査を受ける際には、最低食後4時間は空ける必要があります、

【検査の信頼性】

この検査法は簡便かつ高精度で感染診断のみならず除菌判定にも有用です。

従ってヘリコバクター・ピロリ菌の感染診断のみならず、ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌治療の効果判定の目的に利用されています。

【服用する13CO2の安全性】

13CO2は、自然界にはおよそ1.1%存在します。

そして放射活性を有しない安定元素ですから、服用しても問題はありません。

2015年7月20日月曜日

ヘリコバクター・ピロリの検査-1.総論-

【ヘリコバクター・ピロリとは】

ヘリコバクター・ピロリ(一般的にピロリ菌と呼ばれます)は胃粘膜に生息する微好気性グラム陰性らせん状桿菌で、ウレアーゼという尿素を分解する酵素を持っています。

強酸の胃液が分泌される胃には、昔から細菌をはじめとする微生物は生存しないものと考えられていましたが、1983年、オーストラリアのロビン・ウォレン(1937~)とバリー・マーシャル(1951~)が胃粘膜からをヘリコバクター・ピロリを分離・培養することに成功して後、強酸性の胃液が分泌される環境下でも棲息可能な微生物が存在することが明らかにされました。

そしてヘリコバクター・ピロリが胃炎、胃潰瘍や十二指腸潰瘍と関係することをも証明したわけです。

この業績によりこの二人は2005年ノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

【ヘリコバクター・ピロリの形状】

ヘリコバクター・ピロリは、直径0.5~1.0μm、長さ2.5~5.0μmで、2~3回ねじれたらせん形を呈し、両端に2~6本の鞭毛を有しています。

鞭毛をスクリューのように回転運動させることにより胃粘液中を移動して棲息します。

【感染するとどうなるのか】

ヘリコバクター・ピロリは、慢性胃炎、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃癌や MALTリンパ腫やびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫などの発生に繋がることが報告されています。

更に特発性血小板減少性紫斑病、小児の鉄欠乏性貧血、慢性蕁麻疹などの胃外性疾患の原因となることが明らかにされています。

【感染率】

一昔前までは、世界中のほとんどの人がヘリコバクター・ピロリに感染していたと考えられていました。

しかし現在では、衛生環境の向上により感染者数は減少しています。

反面発展途上国の人々のヘリコバクター・ピロリ感染率は依然高率です。

現在全世界の40~50%の人がヘリコバクター・ピロリに感染しているといわれていますが、わが国の場合、30歳代以下の人の感染率は約25%と低いものの、50歳代以上の人は70%以上といわれ、発展途上国並みの高さを示しています。

わが国ではおよそ3500万人の感染者がいると推測されています。

【感染経路】 

感染経路については未だ解明されていません。

この細菌が胃の中に存在することから口からの感染が強く示唆されています。

感染の例をあげますと、免疫力の未熟な乳児への離乳食の口移し、ヘリコバクター・ピロリ感染者との濃厚なキス、また糞便に汚染された食物・水の摂取による感染が考えられています。

【自然治癒はあるのか】

一度持続感染が成立すると自然消滅することは稀で、除菌や胃粘膜の高度萎縮などの環境変化がないかぎり感染が持続すると考えられています。

【検査法】

日本ヘリコバクター学会のガイドラインでも、以下の診断法が採用されています。

1.尿素呼気テスト (urea breath test, UBT)

2.血中・尿中抗ヘリコバクター・ビロリ IgG抗体検査

3.便中ヘリコバクター・ビロリ抗原検査

4.内視鏡生検検査

5.迅速ウレアーゼ試験 (rapid urease test, RUT)

6.組織鏡検法

7.培養法

※次回からこれら検査法について解説していきます※

【除菌】

胃及び十二指腸潰瘍は治療しても再発を繰り返し一生の病気といわれてきました。

現在では、しかし、ヘリコバクター・ビロリを除菌すれば、再発を防止できるようになってきました。

【除菌療法】

プロトンポンプ阻害薬(PPI)とアモキシシリン水和物(AMPC)及びクラリスロマイシン(CAM)の3剤併用治療(PAC)による第一次除菌治療を行います。

一次除菌が不成功の場合は、クラリスロマイシンをメトロニダゾール(MNZ)に変更して3剤併用療法(PAM療法)による二度除菌治療を行います。

※二次除菌までが保険適応となります※

【除菌の問題点】

近年言われていますが、除菌率が年々低下していることが問題になっています。

その原因としては除菌治療に使用されている抗生物質に対してヘリコバクター・ビロリが耐性を獲得してきていることが考えられます。

【除菌失敗率】

除菌成功率はおよそ80%です。

また、除菌成功例でのピロリ菌の再感染率2~3%ですが、除菌後にも胃がんが発見されるなどの報告もありますので、定期的に検査をしていく必要はあります。

2015年7月7日火曜日

ペプシノーゲン検査

【何を調べる検査なのか】

胃がんのスクリーニング検査として有用な検査のひとつです。

血液中のペプシノーゲンのⅡに対するⅠの割合を調べることにより、胃粘膜の萎縮の広がりとその程度、胃液の分泌機能、胃粘膜の炎症の有無が分かるほか、胃がんのスクリーニング検査として有用な検査方法とされています。

【ペプシノーゲンⅠ、Ⅱとは】

ペプシノーゲンⅠは胃酸の分泌する胃底腺領域に限局しており、ペプシノゲンⅡは、胃酸分泌領域およびガストリン分泌領域にまたがって広くみられます

【検査原理】

ペプシノーゲンは蛋白分解酵素であるペプシンの不活性型前駆体で、血清ペプシノーゲン値は胃粘膜の形態と外分泌機能を反映します。

そして胃酸の働きによってタンパク質を分解する酵素ペプシンにより、胃の分泌される場所によってペプシノーゲンⅠとⅡに分類されます。

※前駆物質は前駆体とも言い、物質代謝ではある物質が一連の反応で別の物質へと代謝される場合,反応のはじめの方により近い物質を,あとの方の物質に対して前駆物質と呼ぶ※

【検査方法】

数mlの血液で検査は簡単にできます。

【検査を受ける際の注意】

胃酸分泌抑制剤の中で、プロトンポンプ阻害剤を内服中の人は、ペプシノーゲンが高値になることからこの検査は適していません。

みぞおちの痛み、嘔吐、血便、体重減少など胃や十二指腸の疾患が強く疑われる症状がある場合は、ペプシノーゲン検査を受けずに、最初から上部消化管内視鏡検査などの精密検査を受けることをおすすめします。

【陰性と陽性の判定基準】

陰性・・・・・・Ⅰ値70以上かつⅠ/Ⅱ比が3以上。

陽性・・・・・・Ⅰ値70未満かつⅠ/Ⅱ比が3未満。

中等度陽性・・・Ⅰ値50未満かつⅠ/Ⅱ比が3未満。

強陽性・・・・・Ⅰ値30未満かつⅠ/Ⅱ比が2未満。

【検査結果の判定】

陽性・・・・胃粘膜に萎縮があると考えられ、萎縮性胃炎、胃がんが疑われます。

※ペプシノーゲン検査単独で胃がんと判定することは出来ないので、上部消化管内視鏡検査などの画像診断との併用が必要不可欠となります※

※陰性でその数値が高い場合には、胃液の分泌が多いと考えられ、胃炎や胃・十二指腸潰瘍、ヘリコバクター・ピロリの感染が疑われます※

※ヘリコバクター・ピロリが除菌されると正常値(Ⅰ値70以上、かつⅠ/Ⅱ比3以上)になるので、除菌治療の効果を判定するのに利用されています※

【ペプシノーゲンⅠ/Ⅱ比の欠点】

胃の萎縮と関係なく発症する未分化型腺がんや、間接X線法では容易に診断できる進行がんが逆に見逃されると言われています。

【ペプシノーゲンⅠ/Ⅱ比の欠点を補うには】

ペプシノーゲンⅠ/Ⅱ比でスクリーニングを実施し、陽性になった人は胃カメラによる精密検査を実施します。

陰性者は胃X線検査を受けるという方法が最適であると考えられています。

【何故ペプシノーゲン検査を実施するのか】

慢性萎縮性胃炎は、胃がん発生と密接な関係があることから、慢性萎縮性胃炎は胃がんの高危険群とされています。

その為慢性萎縮性胃炎を的確に診断することが、胃がんの早期発見と早期診断の向上に有効となります。

要するにペプシノーゲン法によるスクリーニングは、分化型の胃がんのみならず、未分化型の胃がんも数多く発見できる利点があるということです。