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2015年7月20日月曜日

ヘリコバクター・ピロリの検査-1.総論-

【ヘリコバクター・ピロリとは】

ヘリコバクター・ピロリ(一般的にピロリ菌と呼ばれます)は胃粘膜に生息する微好気性グラム陰性らせん状桿菌で、ウレアーゼという尿素を分解する酵素を持っています。

強酸の胃液が分泌される胃には、昔から細菌をはじめとする微生物は生存しないものと考えられていましたが、1983年、オーストラリアのロビン・ウォレン(1937~)とバリー・マーシャル(1951~)が胃粘膜からをヘリコバクター・ピロリを分離・培養することに成功して後、強酸性の胃液が分泌される環境下でも棲息可能な微生物が存在することが明らかにされました。

そしてヘリコバクター・ピロリが胃炎、胃潰瘍や十二指腸潰瘍と関係することをも証明したわけです。

この業績によりこの二人は2005年ノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

【ヘリコバクター・ピロリの形状】

ヘリコバクター・ピロリは、直径0.5~1.0μm、長さ2.5~5.0μmで、2~3回ねじれたらせん形を呈し、両端に2~6本の鞭毛を有しています。

鞭毛をスクリューのように回転運動させることにより胃粘液中を移動して棲息します。

【感染するとどうなるのか】

ヘリコバクター・ピロリは、慢性胃炎、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃癌や MALTリンパ腫やびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫などの発生に繋がることが報告されています。

更に特発性血小板減少性紫斑病、小児の鉄欠乏性貧血、慢性蕁麻疹などの胃外性疾患の原因となることが明らかにされています。

【感染率】

一昔前までは、世界中のほとんどの人がヘリコバクター・ピロリに感染していたと考えられていました。

しかし現在では、衛生環境の向上により感染者数は減少しています。

反面発展途上国の人々のヘリコバクター・ピロリ感染率は依然高率です。

現在全世界の40~50%の人がヘリコバクター・ピロリに感染しているといわれていますが、わが国の場合、30歳代以下の人の感染率は約25%と低いものの、50歳代以上の人は70%以上といわれ、発展途上国並みの高さを示しています。

わが国ではおよそ3500万人の感染者がいると推測されています。

【感染経路】 

感染経路については未だ解明されていません。

この細菌が胃の中に存在することから口からの感染が強く示唆されています。

感染の例をあげますと、免疫力の未熟な乳児への離乳食の口移し、ヘリコバクター・ピロリ感染者との濃厚なキス、また糞便に汚染された食物・水の摂取による感染が考えられています。

【自然治癒はあるのか】

一度持続感染が成立すると自然消滅することは稀で、除菌や胃粘膜の高度萎縮などの環境変化がないかぎり感染が持続すると考えられています。

【検査法】

日本ヘリコバクター学会のガイドラインでも、以下の診断法が採用されています。

1.尿素呼気テスト (urea breath test, UBT)

2.血中・尿中抗ヘリコバクター・ビロリ IgG抗体検査

3.便中ヘリコバクター・ビロリ抗原検査

4.内視鏡生検検査

5.迅速ウレアーゼ試験 (rapid urease test, RUT)

6.組織鏡検法

7.培養法

※次回からこれら検査法について解説していきます※

【除菌】

胃及び十二指腸潰瘍は治療しても再発を繰り返し一生の病気といわれてきました。

現在では、しかし、ヘリコバクター・ビロリを除菌すれば、再発を防止できるようになってきました。

【除菌療法】

プロトンポンプ阻害薬(PPI)とアモキシシリン水和物(AMPC)及びクラリスロマイシン(CAM)の3剤併用治療(PAC)による第一次除菌治療を行います。

一次除菌が不成功の場合は、クラリスロマイシンをメトロニダゾール(MNZ)に変更して3剤併用療法(PAM療法)による二度除菌治療を行います。

※二次除菌までが保険適応となります※

【除菌の問題点】

近年言われていますが、除菌率が年々低下していることが問題になっています。

その原因としては除菌治療に使用されている抗生物質に対してヘリコバクター・ビロリが耐性を獲得してきていることが考えられます。

【除菌失敗率】

除菌成功率はおよそ80%です。

また、除菌成功例でのピロリ菌の再感染率2~3%ですが、除菌後にも胃がんが発見されるなどの報告もありますので、定期的に検査をしていく必要はあります。